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2022年04月07日

伴走支援プログラム支援対象者インタビュー:信州産ソルガムの商品製造・販売「AKEBONO株式会社」/代表・井上格さん

「長野市スタートアップ成長支援事業」は、長野市内で事業展開を希望する創業予定者や、既に活動する事業者に向けて外部メンターによる伴走支援を行う3ヵ月間のプログラム(伴走支援プログラム)です。
本記事では、プログラムに参加した事業者にインタビューし、現在取り組んでいる事業とプログラム参加前後の変化についてご紹介します。
今回ご紹介するのは、イネ科の穀物であるソルガムをはじめ、信州産の食材を使用した商品の製造・販売を行う「AKEBONO株式会社」の代表・井上格さんです。

小麦アレルギーを持つ人、グルテンフリー支持者に新たな選択肢を

ーAKEBONO株式会社の事業内容について教えてください。
ソルガムという穀物を使った商品の製造・販売、グルテンフリー食品の生産加工・販売、信州産食材の卸販売の3本柱で行っています。弊社は2019年に設立し、東京から長野市に地域おこし協力隊の制度を活用して移住してきたメンバーで立ち上げた会社です。私は元々東京の商社で働いていて、妻が長野県出身ということもあり、長野で起業しようと思い移住を計画していたんです。一緒に法人を立ち上げた専務は、長野市に拠点を置くきのこの製造会社ホクトで働いていました。ソルガムを活用した事業の構築は協力隊のミッションでもあり、そのまま協力隊の就任中に法人化しました。

ーソルガムとはどんな穀物なのでしょうか?
ソルガムは実を食用できるイネ科の穀物で、粉末にすると小麦粉のように使用することができます。2013年から長野市と信州大学が共同で調査研究事業に取り組み、耕作放棄地を利用した信州産のソルガムの生産や活用を行おうという流れがあるんですよ。我々は信州大学工学部の中に法人を置き、信州大学発の認定ベンチャーとして活動しています。

ー事業をはじめた経緯を教えてください。
私の子どもが小麦アレルギーを持っていたため、食事制限があり食べれるものが非常に少なかったことが事業をはじめた最初のきっかけです。小麦アレルギーを持つ人は日本国内に20万人いると言われていて、小麦の代替品として米粉を使った商品を食べることが多いんです。米粉でつくった食品は、しっとり、もちもち、ずっしりとした食感でどれも似たものばかり。この触感に飽きてしまって、米粉以外のアレルギーフリーの商品を探す人も多いようです。一方でソルガムはさっくり、ふわふわで小麦に近い食感を生み出すことができます。ただ、これまでソルガムは日本国内で手に入れるとなると輸入品ばかりでした。

ー米粉以外の食品の新たな選択肢を小麦アレルギーの方に提供しようと思ったのですね。
はい。国産でしかも信州産のアレルギーフリーの商品が世の中に普及すれば、私のようにアレルギーを持つ子の親や、食材に新たな選択肢を求める人に価値を提供できると思ったんです。また、小麦アレルギーの人だけでなく健康的な理由や嗜好としてグルテンフリーを実践される方もいると思うので、私たちは「20万人+αの笑顔を守りたい」を念頭に商品開発を行っています。

プログラムを通し事業コンセプトに見直し、原点に立ち戻った

ー今回プログラムに参加するにあたってどのような課題や経緯があったか教えてください。
創業して4年、売上は伸びていますが利益に直結していないという数字的な課題がありました。事業を進めるなかで、商品企画やコンセプト、戦略に一貫性がないことが数字に現れているんじゃないかなと感じていました。また、当初2人だった会社はパートを含め7名になったことで全体の業務量が増え、コミュニケーションのとりづらさが発生したことも課題としてあがりました。社内で共有する戦略やビジョンも、裏付けのない感覚的なものになっていると感じ、事業全体の軌道修正ができたらと思い伴走支援プログラムに参加することにしたのです。

ー実際にプログラムに参加して、印象的なできごとや気づきはありましたか?
社内で共有する事業ビジョンを固め、主力商品のグルテンフリードーナツのプロモーション方法を見直したことは、プログラム中の大きな変化ですね。グルテンフリードーナツは、米粉とソルガムの粉をミックスしてつくったもので、幼稚園への卸と、通販サイトが主な販売ルートです。しかし、販促のチラシを一見しただけではソルガムを使用した商品であることが伝わらなかったんです。「グルテンフリーのドーナツ」という売り出し方でも多くの方に手にとってもらえますが、私たちが当初行いたかったのは、アレルギーを持っている方やグルテンフリーの商品を求める方に向けて米粉以外の選択肢を提示すること。本来の目的に沿わない売り出し方をしていることに気づいたんです。

ーなるほど。そこからどのように改善を進めたのでしょうか?
当初は差別化のために「じゃあワッフルをつくろう」とか「違う味をつくろう!」といった部分にばかり目が言って本来届けたかった「米粉以外の選択肢としてのソルガム」への価値の最大化に意識が向かなかったんです。メンターの方との面談で「本来やりたいことはなんだったの?」「どういう方向に行きたいの?」「ターゲットは誰なの?」「どんな価値を提供できるの?」とセッションを重ねる中で、改めて私たちがやりたかった価値の提供に立ち戻ることができました。その後、ドーナツのPOPやプロモーションを見直し、修正を行いました。

長期目標を見据えて、アクションを起こし続ける

ー今回、プログラムに参加してよかったと感じる点を教えてください。
プログラムに参加して率直に感じたのは「やはり今まで私たちが考えてきたコンセプトや戦略の根拠は、非常に感覚的だったな」ということです。メンターの方と話す中で、「なぜその選択がいいと思って行動してきたのか」を改めて整理して、裏付けをもつことができたんです。自分たちのこれまでの選択肢に自信を持ち、アクセル踏んで次のアクションを起こせそうだと思えたことが、私の中では非常によかった点ですね。

ー企業または個人として、今後の展開についてもお聞きしたいです。
今年注力したいのは、グルテンフリードーナツの販売促進と、ソルガムを使用したハンバーグの展開です。代替肉は今脚光を浴びているジャンルのひとつ。小麦粉の代替が米粉であるように、市場に流通する代替肉は大豆でつくられたものが大半なんです。でも世の中には大豆を食べられない方や、大豆に飽きている方も存在するはず。ソルガムを使用することで食の選択肢を広げていきたいです。更に今後、10年、20年かけて県内の中山間地にソルガムを植えることで耕作放棄地を減らし、茎や葉はバイオマス発電に活用する地域自立型の循環モデルも目指していきたいですね。

「時間はかかるかもしれませんが」と長期の目標を教えてくださった井上さん。「いろんな企業が入ることで選択肢が増える社会になれば、ミッションの達成になる考えもできると思っています」とも。食の可能性を広げるソルガムは、今後全国的にも注目される穀物になるはず。そのトップランナーとして事業展開をしていくAKEBONO株式会社の活動に目が離せません。