「長野市スタートアップ成長支援事業」は、長野市内で事業展開を希望する創業予定者や、既に活動する事業者に向けて外部メンターによる伴走支援を行う3ヵ月間のプログラム(伴走支援プログラム)です。
本記事では、プログラムに参加した事業者にインタビューし、現在取り組んでいる事業とプログラム参加前後の変化についてご紹介します。今回ご紹介するのは、長野大学を休学し(2022年4月より復学予定)、空きスペースのシェアリングサービス「結び〼」を行う山崎迅汰さんです。山崎さんは、上期(2022年夏に実施)のプログラムに参加してくださいました。
キッチンカーの出店場所マッチングから多目的スペースのマッチングへ
ー「結び〼」とはどんな事業なのでしょうか?
2021年4月にスタートした長野県内の空きスペースを借りたい方と貸したい方を結ぶスペースシェアサービスです。当初は、「メルカリ」や「Airbnb」のようなインターネットのプラットフォームを介したシェアリングサイトの運営に注力しようと計画していましたが、現在、Instagramを主軸に借り手へのアプローチや事例の紹介を行っています。また、地域と利用者に密着したサービスを目指し、オフラインでのやり取りに力を入れています。私がスペースを提供してくださる方の元へ打ち合わせに行ったり、利用者にお会いする機会を増やしていますね。
すべての人が笑顔になれるサービスを大切にしています。その空きスペースをもっている方が遊休資産の収益化でき、スペースを借りたい人もワンステップで自分の商品を販売できる。足を運んでくださったり、地域の方にも地域も盛り上がって地域の方も喜んでもらえるような三方良しをビジョンに掲げています。
ー事業をはじめたきっかけを教えてください。
オーストラリアに1年間ワーキングホリデーに行った経験が、この事業につながりました。当時、現地で浸透していたシェアハウスや「Uber」といったシェアリングエコノミーのサービスにとても助けられて。資金が少なかったため、それらのサービスのおかげでライフラインにかかる費用を抑えられ、生活が成り立っていたんです。帰国後に大学に戻り地域ビジネスや持続可能なまちづくりについて学ぶなかで、「実際に何をしたら地域の人のために活動できるのか」と考えるようになり、シェアリングサービスにたどり着きました。
ーワーキングホリデーで出会ったシェアリングエコノミーサービスが事業につながったのですね。
はい。当初はキッチンカーを運営される方と出店場所を結ぶスペースのシェアリングサービスを考えていたんです。というのも僕自身、18歳のころにキッチンカーの運営を任されたことがあり、キッチンカーの運営には課題が多いと感じたから。当時はインターネットで「長野県 出店場所募集」と検索をして出店場所を探しましたが、出店場所の選択肢が少なくて。また、ほとんどの出店料が売上のパーセンテージで設定されていたため、売上が伸びても利益率は低いことも課題でした。
このコロナ禍でも、県から補助金がでて飲食店をやられている方やフリーランスの方がキッチンカーでの事業をはじめていることを知り、新規参入する方に優しいサービスとして長野県内のスペースシェア出店料を定額に設定したサービスを提供できたらと考えていました。事業を模索するなかで、キッチンカーに限らず自由に使えるスペースを求める方のニーズがあるのではないかと思い、空きスペースを求める人とスペースを持つ人のマッチングに振り切ることにしたんです。
ーなぜ、ターゲットを広げる舵取りをしたのですか?
大手のスペースシェアリングサイトを見たときに長野県スペースの掲載数がとても少なくて。その理由を考えたときに「スペースを貸すことやどんな使い方をしてもらえるか不安要素があるんじゃないか」と思ったんです。それだったら、私を信頼してサービスを活用してもらえるような地域密着のサービス提供をすべきだと思い至りました。
プログラムから学んだのは「事業の進め方」と「ヒアリングの大切さ」
ー今回、プログラムに参加したきっかけを教えてください。
まず創業の手順を教えてもらうこと、そして持続的に事業を進めるためにはどうしたらいいのかをメンターの方に伴走していただくことで達成したかったからです。
ープログラムを通して気づいたことや解決した部分はありますか?
なにより、多くの経営者の方や社会人の先輩方に意見をいただく機会が多かったことが大きな成果だったと思います。はじめは事業の進め方すらわからなかったので。
また、事業を進める上でヒアリングの大切さを実感しました。私が行っているのはマッチングサービスなので利用者側とスペースを貸したい側の両方にヒアリングが必要。プログラム中に約20ヵ所へのヒアリングを行いましたが、スペースの規模感や借り手の営業形態を考慮し、もっと大人数へのヒアリングすべきだったなと。自分の事業のコンセプトを重視しつつ、お客さんのニーズに答えることの難しさを感じています。
ーヒアリングを通して、プロモーションやサービス内容に結びつける必要があるのですね。
はい。また、プログラム中に事業の軸がぶれてしまいそうになったことも何度もありました。経営の知識のある方に「こっちの方向性で進めた方がいいよ」といただくアドバイスをすべて取り入れようと思っていた自分がいたんですよ。「アパレル向け一本のスペースシェアにしたほうがいいんじゃないか」とアドバイスをいただくこともありました。ビジネスのイメージがお客様に伝わりやすいですが、実際私がやりたかったのは、利用用途を定めず、借り手のアイデアでスペースの使い方が変化していく自由な貸し出しを長野で実現したい気持ちがあったからです。多くの経営者と出会い、お話を聞いていただくなかで何度もぶれつつあった軸をメンターの方とミッション、ビジョンを確認し、軌道修正する作業を行ってきました。もちろん事業を持続可能なものにするためには、収益については考えていかないといけませんが、収益をあげることばかりに注力して大切にしたいことを見失ってはいけないと痛感しましたね。
善光寺御開帳を通して事業をスケールしたい
ープログラムに参加した率直な感想を教えてください。
自分の知識不足を実感したと同時に、ビジネスマナーや社会人としての未熟さも痛感し、メンターの方にたくさん助けていただきました。同時期に支援を受けた3名から得たことも多くて、今もライングループで事業についてのヒアリングや意見交換をすることもあります。
ープログラム参加から半年が経ち、現在の事業の状況はいかがですか?
伴走支援の終了後にコロナ禍の状況を鑑みてなかなか活動ができない時期が続きました。2022年の4月から、事業を再スタートさせる予定です。
再スタートにあたって、まずは提供するスペースをひとつにしぼり、自分の事業の強みである地域と利用者に密着したサービスに注力したいと思っています。4月から6月に実施される善光寺御開帳に併せて、善光寺の中央通りにあるゲストハウス「pise」の店舗部分を貸していただくことになっています。ひとつのスペースで多様な活用ができる事例づくりをしたいですね。
何度もスペースを利用してくださるリピーターの方もいてやりがいを感じますし、利用者からいただくフィードバックには毎回発見があります。趣味でフラワーアレンジメントをしている20代の方は、もう6回ほど利用してくださっていて。ポップアップショップの未経験者でしたが、回数を重ねていくごとに魅力的なディスプレイをつくることができるようになり、地域のイベントに呼ばれることも増えたそうです。利用者とともに事業も少しずつ成長しているのかなと感じています。
善光寺御開帳期間にスペース利用の事例づくりに励むという山崎さん。大学生活と並行して事業を進め、この1年で法人化も目指せたらと意気込みを語ってくださいました。