Innovation

イノベーション創出支援事業

2021年04月13日

【2020地域共創ラボ #05レポート】持続可能なNAGANOをデザインする、7つの視点

2021年3月13日に開催された地域共創ラボ。

今期のプログラムとしては最終回となる今回は、各参加者の成果発表会に合わせて「持続可能なNAGANOをデザインする」というテーマでのシンポジウムを開催しました。

地域共創ラボに参加した事業者たちによって立ち上がる事業の概要や県内企業のユニークな取り組みについてのプレゼンテーションやディスカッションをもとに、「持続可能なNAGANOをデザインする」ためのトークが展開されました。

イノベーションを創り出す3つのプロジェクト

冒頭、NICOLLAP理事・山浦や、本プログラムの企画に携わった日本ユニシスより永島氏、市原氏が登壇。地域共創ラボの意義や目指す未来像について語りました。

「この地域共創ラボは、実際に成果が出るプログラムとなっている」(NICOLLAP 山浦)

「現在、地域や企業間の共創を促すデータ流通のプラットフォームを開発中です。日本ユニシスが培ってきたデジタル領域での技術や知見を活かして、自分の暮らしを自分でデザインできる仕組みを長野でつくりたいと考えています」(日本ユニシス 永島氏)

「地域共創ラボとは、地域を牽引する民間事業者が、経営課題・社会課題解決に向けて、共創によって事業化を目指す実践者のコミュニティです。

課題が複雑化している今の世の中で、人口が減っても、課題があっても、いかに地域の人々が幸せに暮らせるのかという、視点での議論をしていきたい。地域をひとつの社会システムと捉え、市民視点に立ち、共感・共創できるような持続可能なまちづくりをしようという想いが地域共創ラボの原点にあります」(日本ユニシス 市原氏)

その後、いよいよ成果発表を兼ねたプレゼンテーション・ディスカッションの時間に。

地域共創ラボが実施してきたイノベーション創出プログラムから3テーマ、NICOLLAPが提供している地域課題解決プログラムから4テーマ、計7テーマの議論が展開されました。

「イノベーション創出」の1テーマ目は、組織変容。

地域共創ラボに参加している下記3名が登壇しました。

・一般財団法人長野経済研究所 寺島氏
・長野朝日放送株式会社 五十嵐氏
・アルピコホールディングス株式会社 宮坂氏

ここでは、2020年度の地域共創ラボを継承・発展させたビジネスプラン「Next Lab」についてトークを展開しました。「Next Lab」とは、従来型の研修のようにコンテンツを提供するだけではなく、変容や成長にコミットする「共創型経営課題解決」のビジネスモデルが特徴。リーダーに対してコーチを提供したり、一人ひとりが実践者として変容していくための組織の枠を超えた実践人材コミュニティを形成するなど、社内メンバーが自発的に経営を進化させていくスキームを提供していきます。

「イメージしているのは、『地元民間企業の実験場』。それぞれの企業のサービス、知見、強みを出し合って、新しい事業やサービスを興していく環境をつくりたいと考えています。組織内外の実践人材を巻き込んでいきたいです」(アルピコホールディングス 宮坂氏)

「民放テレビ局として、この事業をいかに有効に世の中に拡げていけるかを考えています。さまざまな制作方法・メディア掲出でブランディングに寄与していくつもりです」(長野朝日放送 五十嵐氏)

テレビ局に勤める五十嵐氏は、映像を用いたプレゼンテーションを披露

「当社は、地域企業とのリレーションもひとつの強み。企業同士をマッチングさせることで『Next Lab』の事業推進に関わっていけたらと考えています」(長野経済研究所 寺島氏)

「イノベーション創出」の2テーマ目は、食。
こちらも地域共創ラボの参加者3名が登壇しました。

・株式会社ミールケア 関氏
・株式会社高見澤 高見澤氏
・株式会社タカチホ 高山氏

安定供給や品質の担保、フードロスなど、一口に「食」といっても切り口はさまざま。その中でもこのグループが目指しているのは、持続可能な食のデザインです。地域共創ラボのプラットフォームを活かして、企業の枠を超えた事業づくりを目指しています。

「発酵文化が進んでいる長野。そこで考案したのが、『発酵あんこ』という商品です。地域共創ラボ内で出会ったメンバーと企業の枠を超えたコラボレーションによって事業化していきたいと考えています」(ミールケア 関氏)

「当社の商品でもある、なめたけを活かした新商品開発に挑んでいます。今回の地域共創ラボに参加している森永乳業様とコラボレーションして、廃棄されてしまうりんごに着目した商品も検討中です」(高見澤 高見澤氏)

「コロナ禍で生活者のニーズも変化しています。私たちの会社は、おみやげ品などの観光領域、いわゆる非日常分野の事業がメインですが、今後は日常的な食の分野にも進出していきたいです。地域共創ラボで生まれたプラットフォームを活かして事業を展開できればと思っています」(タカチホ 高山氏)

「イノベーション創出」の3テーマ目は、ゼロカーボン。
登壇者は、下記の3人です。

・長野県環境部環境政策課 真関氏
・株式会社守谷商会 畑氏
・長野朝日放送株式会社 五十嵐氏

SDGs未来都市に選定されたり、都道府県として初めて「気候緊急事態宣言」を行ったりと、気候変動に関する動きを積極的に展開している長野県。

「気候危機によって、雷鳥の生息域が小さくなるなどの影響が出ています。県としても、温室効果ガスの排出削減につながる民間の取り組みや技術開発を支援する10億円規模のゼロカーボン基金をつくるなど、さまざまな取り組みを進めています」(長野県 真関氏)

「私たちが注目したのは、天候・気候に左右されない地中熱。その中でも地下水の熱を利用したシステムを開発しました。このシステムは、国から表彰も受けています。地中の恵みを社会の活力にしていきたいと考えています」(守谷商会 畑氏)

「当社は、2008年から『地球を守ろうプロジェクト』を推進してきました。その一貫として長野県と一緒に運営しているのが、『信州ゼロカーボンWEB講座』というサイト。楽しんみながら学べるように制作しているのでぜひご覧ください」(長野朝日放送 五十嵐氏)

地域課題を解決する3つのプロジェクト

後半では、「地域課題解決」に関するディスカッションに。

1つ目のテーマは、人材育成です。

NICOLLAPで提供しているシステムデザイン思考の実践プログラムから、講師の合同会社Judge Plus代表 広瀬毅氏と、プロポーザーとして参加したセイコーエプソン株式会社より技術開発本部木口氏が登壇しました。

「注意したいのが、単なるデザイン思考ではなく、“システム”デザイン思考であること。現在流行しているデザイン思考は海外の一流大学のエンジニア向けに設計された思想。一般的な日本のビジネスパーソンと知識体系が全く違うから、デザイン思考単独で実践してもほぼ上手くいかないんですよ。でも、そこにシステム思考を掛け合わせると理解しやすくなる。たとえばHow、What、Whyなどの階層ごとに情報を構造化、可視化していくんです」(Judge Plus 広瀬氏)

「私たちは、Howの部分、つまり精密加工技術というハードウェアのスペック競争では勝ち抜いてきたけれども、新たな価値を見出していかないといけないと思ったんです。
今回はプリンタからインクを出す、いわば『穴を開ける』技術について深く考える良い機会になりましたね。『穴を開けるってどういうこと?』『なんで穴を開けるの?』といった、これまで考えたこともなかった観点で自分たちの事業価値を見直す機会になりました」(セイコーエプソン 木口氏)

2つ目のテーマは、防災。
株式会社ダイモンの高畠靖明氏と中島紳一郎氏が登壇。

中島氏はオンラインでの出演に。手に持っているのは「YAOKI」

ナカジマ氏は独学で月面探索機「YAOKI」を開発した人物。NASAからも注目され、実際に月に送り込まれることも予定されています。この開発技術を福島の防災に応用することを検討しています。

「人が入り込めないような災害地にドローンに搭載した『YAOKI』を送り込むことで、防災に寄与できないかと考えています」(ダイモン 高畠氏)

3つ目のテーマは、観光。

登壇したのは、「古木」という歴史とストーリーを宿した木材を活かした内装の設計・施工やビジネス支援などを手掛ける株式会社山翠舎の山上浩明氏。観光には欠かせない「飲食店」を支援する事業についてプレゼンテーションを行いました。

「飲食店開業者の課題は、良い物件が見つからない。資金調達計画が上手く立てられない、お客さんの定着が難しいといったもの。そこに対してソリューションを提案したいと考えています。たとえば店舗移転の初期費用を半額にする、市場に出回らないマル秘物件を紹介する、事業計画の作成を支援する、Emotional Quality(空間感情品質)を重視した「E空間™」の提供する、といったこと。そうすることで、わざわざお客様が足を運ぶお店になり、スタッフもやる気になると信じています。そして、個性溢れる店を増やしていくことが私の理想です」

最後に登壇したのは、長野市で女性コミュニティ「BIOTOPE」を主催する岡田江理子氏

「私たちは、単なる仲良しグループではありません。具体的な“コト”を起こしていきたいと考えるコミュニティです。具体的には、大学生と女性経営者など年齢もバックグラウンドも異なる人同士が語り合う交流会『PICKs』、社会課題の解決を目指す計画を練ったり女性視点で支持されるマーケティングを議論したりするラボ『ONE°』といった活動を展開しています。私たちが考える女性活躍とは、『管理職に女性が何人いる』といったものではありません。私たちが“コト”を生み出して、活動している様子が、みなさんの目に留まってどんどん外に発信されていることこそが目指す女性活躍の姿だと考えています」

地域共創ラボで、参加者が学んだこととは

シンポジウム後は、地域共創ラボ参加者一人ひとりが学びを共有しました。

「地域共創ラボに参加するまでは、議論を妨げないようにと自分の感情を押し殺していました。しかし、今は『まずは自分の考えを外に出そう』と意識するようになっています」

「仲間がいることで、自分一人ではできないことがこんなスピーディに立ち上がるんだと実感しました」

「当初はプログラムの全体像が見えず不安な部分があったけど、やっていく内に自分自身でも変わっていく実感がありました」

一人ひとりがプログラムを通じて得た視点や成長実感について想いを込めて語りました。

最後に、講師の渋谷氏は、全5回を振り返りこう語ります。

「改めて、これから自分がどうするのか、決めてほしいと思います。その自分の選択に従って前に進んでほしいです」

これにて、2020年度の地域共創ラボは幕を閉じました。

しかし、参加者にとっても、ここからがスタートライン。ここから自身の想いや課題意識を胸に実践を積み重ねていくことでしょう。

また、地域共創ラボは、2021年度も継続予定。どうぞご期待ください。