Start up

スタートアップスタディ

2021年08月16日

【イベントレポート】NAGANO STARTUP STUDY vol.01 ゲスト:アソビュー株式会社 代表取締役CEO 山野 智久氏

■NAGANOスタートアップスタディとは?

社会の変化が激しい今、「起業」という選択肢を持って生きて欲しい。「起業」という手段を持って、社会課題の解決に力を注いで欲しい。そんな思いを学生や若手社会人に伝え、NAGANOから1人でも多くの起業家を生み出すことを目指して企画しています。現役で活躍しているベンチャー起業家をゲストに招き、KDDI株式会社 地方創生推進のトップが、「ここでしか聞けない話」を聞き出す、リアル対談会。ゲストの経験や活動に対する質問や、自身が抱えている起業への悩み、不安などの相談等もリアルタイムで投げられるのは、オンラインならでは、です。

■第1回目のゲスト

アソビュー株式会社 代表取締役CEO 山野 智久 氏

<プロフィール>

学生時代に千葉県柏市の地域情報を発信するフリーペーパーを創刊し、累計30万部を発刊。大学卒業時には、フリーペーパー事業を譲渡し、「3年後に起業する!」という決意を持って新卒でリクルートに入社。実際に3年で退社し、アソビュー株式会社を創業。遊びのマーケットプレイス「アソビュー!」を立ち上げ、日本最大に成長させた。

■対談者

KDDI株式会社 経営戦略本部 副本部長 理事 松野 茂樹

(兼 KDDIラーニング(株)代表取締役社長)

<プロフィール>

2003年以来、一貫してM&Aを担当。2010年に経営戦略本部企業戦略部長に就任し、ベンチャー企業への出資やM&Aも担当。大企業によるベンチャーとのオープンイノベーションの先駆けとなるKDDIのベンチャー投資ファンド「KDDI Open Innovation Fund(KOIF)」の立ち上げ企画の他、ソラコム、nanapi、LUXAなど数々のKDDIによるベンチャー企業のM&Aを実施。2019年からはKDDIの地方創生の全社統括も担当

第一回目のゲスト、山野さんとKDDI 松野による「他では聞けない現役起業家のここだけの話」をテーマにオンライン対談を行いました。

(対談フルバージョンの動画コンテンツは、Facebookグループ「信州起業家情報プラットフォーム」SKIPに登録いただくことで視聴できます。)

―――まず初めに、山野さんより、ご自身のこと、アソビューのことについてお話しいただきました。

■はじめに:自身のこと、アソビューのこと

起業している人が身近にいないと、起業することのハードルが高そうに思えます。今回のセミナーのようにオンラインで情報交換ができる機会が身近にあることで、起業を特別なものとしてとらえなくてもよいと考えることができるでしょう。

私は千葉県の柏市出身で、東京でバリバリ起業を目指して活動していたわけではありません。

出身地である柏市(人口約40万人)で学生中に起業をしました。その後、大学を卒業し新卒でリクルートに就職して3年間働いたあと、2011年にアソビューを創業しました。観光レジャー領域+DXを掲げてアソビューを運営しています。創業から10年になりました。

アソビューは、「遊び」のデジタル流通プラットフォームを運営しています。生活者と事業者の両者に対し事業を展開しており、生活者向けには遊びの機会を最大化させる「アソビュー!」を運営しています。

レジャー施設向けには、予約やチケットの販売など窓口や紙の台帳で行っていたことを、テクノロジーを活用したシステムを導入し、業務生産性を向上させ効率化しています。

「遊び」とは、アウトドア・アクティビティだけでなく、例えば、そば打ち道場、陶芸体験、遊園地などのテーマパーク、善光寺などの観光文化施設、カラオケ、スポーツ観戦など、広い領域を”遊び”と捉えています。また遊びを必要とする人は、夏休みや冬休み、ゴールデンウィークといった長期休暇の時だけでなく、デートや仲間との集まり、週末に子どもとのレジャーなど様々なシーンがあります。

■山野さんへの質問

―――山野さんからアソビューの事業のご説明をいただいてから、参加者からのたくさんの質問に答えていただきました。お話を聞いてすぐに質問できるのも、リアルタイムで繋がる利点です。

Q)学生時代に起業したのはなぜですか?

A)学生時代に起業した理由は、実は、よこしまな理由からなんです(笑)。まず、大学受験で行きたかった大学に行けなかったことがあります。だから大学生になったらすぐに社会人になる準備をしなければ、と考えました。しかし、当時は今ほど大学生のビジネス経験を応援する環境が無く、大学一年生から受け入れてくれる面白そうなインターンはありませんでした。だから、経験を積むために起業してみた、というのが理由の一つです。それと、学生起業家はモテそうだと思ったこともあります。まだ学生起業家が多くいた時代でありませんでしたが、ちょうど有名な起業家がニュースで取り上げられていた時期で、「起業ってものがあるらしい」と知ったタイミングでもありました。身近に感じたというよりも、「起業」という選択肢があることを知りました。いろいろなことが重なって、自分でもできることはないか探そう、というのが一番目の起業をしたきっかけでした。

Q)起業にフリーペーパーを選んだ理由は何ですか?

A)かっこよく言うと市場のニーズがあったからです。とはいえ市場のニーズを見つけよう、といっても難しいですよね。私の場合は、「目の前で困っている人がいた」というのがニーズを見つけるきっかけになりました。具体的には、当時柏市で居酒屋のアルバイトしていたのですが、そのとき近くの古着屋さんやセレクトショップの店員さんなどが来てくれました。昼にそのお店に遊びに行くと、とても良い商品が置いてありました。ファッションが好きだったのでよく原宿にも行っていたのですが、柏市のその店では原宿よりも2~3割安い価格で売っていたのです。「若者にもっと来てほしいけど、なかなか来てくれない」とショップオーナーが言っているのを聞いて、自分も「家の近くにこんなに良いものが割安で売っている店があるなんて知らなかった」ことに気づきました。「知らない」ということが不便だと気づきました。そこで「知らない」という状況をなくしたい、もっと知らない同世代の人に、伝えたい人の気持ちを知ってほしいと考えました。それを叶える手段がフリーペーパーだったんです。当時、フリーペーパーといえば、リクルートが発行していたホットペッパーが主流で、飲食店の割引情報など情報を読者に届けていました。一方我々のフリーペーパーは、先ほどの原体験にある通り、アパレルショップやカフェなどのお店の思いを読者に届ける形で運営を開始しました。

Q)起業にどのくらいのお金が必要ですか?

A)起業したのは大学生の時とアソビューの時と2回あります。お金が必要かどうかはビジネスモデルによります。今の時代はお金をかけずに起業する方法がたくさんあります。クラウドファンディングなどで事業を始めるより先に資金を集めることもできます。広告ビジネスの場合は、広告を出したい企業を集める期間の1~2か月はコストが先行してかかります。でも、実家を活用するなどして事業をすれば費用かからないでしょう。事業を始めた当初は自分自身に給料を支払えるわけではないので、ビジネスが回るまでの生活費、食事代くらいを事前に用意しておけばいいでしょう。

―――実家から通っている学生は、ノーリスクで起業を始めることができ易い、ということですね。

Q)起業するときに必要なスキルは何ですか?

A)ビジネスの内容にもよりますが、事業は消費者なのか、企業なのかどちらかに何かを買ってもらう必要があります。消費者に何かを買っていただくビジネスの場合、お金を払っていただく方に接触したり、お金を集めるスキルはお試しができます。そうした取り組みは学生のうちにやっておいた方がいいでしょう。例えばInstagramで1万人くらいのフォロワーを集めるといった経験は、お客様を集める感覚、大変さを学ぶことを疑似体験できます。また企業に対する場合、準備の段階で優良企業の社長の名刺を集めるといったこともできると思います。どんなに高い技術や素晴らしいサービスであっても、商品(情報など)を買ってくれる人(お客様)がいないとビジネスは成り立ちません。だから買ってくれるための練習をしておくことが大事です。そして、もし自分自身にとって不得意な分野であれば、それが得意な仲間をみつけてくるのも重要です。

Q)起業したいと思ったときに相談した人はいますか?

A)これはグッドクエスチョンですね。起業は相談する人がいればいるほど、楽になると思います。周りに起業している人がいれば、いろんなことを聞くことができます。私自身はそうした方が身近に起業している人がいなかったので、自分自身の心理的ハードルは高かったです。でも最近の起業の仕方や起業してから成長している経営者とお話ししてみると、そんなストレスは感じずに起業している人がいっぱいいて、状況を紐解いてみたところ、身近に相談できる起業家がいた人が結構いることがわかりました。コミュニティの力は凄いと思います。今回の講座でもたくさん質問出していただいていますが、そうした参加している方同士が横に繋がっておくと、いろいろな相談ができたり不安を解消しあえます。そうしたコミュニティがとても大事なんです。

―――情報交換できるコミュニティが重要とのこと。まさにそうしたコミュニティとして「信州起業家情報プラットフォーム(SKIP)」というFacebookグループを作っています。これまでの講座のアーカイブも見ることができ、また講演いただいた起業家にもグループに参加していただいております。そうした起業家に質問することもできます。起業に興味を持っている方同士がコミュニケーションをとれる、繋がりがもてる場となっています。こうした場に是非、参加して、仲間同士や東京の起業家とも繋がりを創っていただくと、「長野だからこそ」の起業ができると思います。

(Facebookグループ「信州起業家情報プラットフォーム」SKIPのご登録はこちらから

起業家の周りで囁かれている格言があります。「ペイフォワード(Pay it Forward)」という言葉です。起業家は、自分が受けた恩恵は別の人に返していこうという想いが強いんです。自分自身が苦労していたときに、見返り無しに助けてくれた方がいたから、その恩を若い世代に返していこうという考え方です。だから、もし「こういうビジネスいいな」と思える起業家がいたら、ネットで検索して、直接連絡を取るということもやってみるといいです。ただし、起業家に連絡をするときには、かわいがられるような連絡をしなければだめですよ(笑)。相手も人間なので、厚かましい感じで連絡しても相手にしてもらえないので注意してください。

―――Facebookは最近の若者はあまり使っていないとのことですが、実際にビジネスや人と人を繋げていくときのツールとして、Facebookは優れものです。ベンチャー界隈のコミュニケーションツールとしてはFacebookがよく使われています。多くの起業家の連絡手段としてFacebook Messengerを利用しています。是非、Facebookも活用してみてください。

■アニメ キングダムについて

―――話は盛り上がり、アニメ キングダムに移りました。

Q)アニメ キングダムを社内でのコミュニケーションツールとして使われているとのこと。なぜ、アニメを社員共通理解のために使っているのですか?

A)人間のコミュニケーションはあいまいだと思っています。自分の感情を100%言葉で言い表せているかというと、限度があると考えています。文字としての言葉は、受け取る人それぞれに解釈の幅を与えてしまいます。そこでアニメを題材にして、「あの時のあのシーンのように頑張ろう!」というと意思疎通が明確にできるんです。場面のイメージが同じなので、共通認識をより深くすることができます。

Q)なぜ、そのアニメが「キングダム」なのですか?

A)スタートアップは事件の連続です。気持ちを脅かすこと、びっくりすることがたくさん起こります。キングダムのストーリーである中華統一のプロセスはベンチャー企業の事業の進め方と近いのではと気づきました。心が奮い立たされるし、自分のシチュエーションとかぶせやすいんです。

Q)山野さんが好きなキングダムのキャラは何ですか?

A)キングダムの登場人物・武将には、武力タイプと知略タイプの2タイプいます。その両方を兼ね備えている「王騎将軍」が好きです。会社経営も戦略と感情があります。たとえ戦略が完璧だったとしてもメンバーの感情や気持ちがついてこないことというのはあり得ます。例えば、メンバーを労っていなかったり、大切にしていなかったりすると、ついてきません。会社経営、リーダーをやっていくためには、一要素だけではだめなんです。CEOとは、「チーフ・エブリシング・オフィサー(Chief Everything Officer) 」だと思っています。複数の要素を一定程度持っていないとリーダーは成立しないと考えています。

■NHK番組「逆転人生」(2021年4月12日放映)について

―――レジャーを提供するアソビュー社は、コロナの影響の直撃を受けました。売り上げは激減しましたが、社員の雇用は守ろうとあらゆる施策を練り上げ、トライしました。そして、新たに開発した「日時指定チケット」を導入することで、起死回生の大逆転を果たしました。

Q)会社の危機に直面された際に「社員を守る」決断をされたとのことですが、その時、どういったことを考えられたのですか?

A)「事業を始めるときに、売り上げが上がっていない中でどうやって仲間を集めたのですか?」との質問もありました。その答えとも通じていますが、ベンチャー企業は自分自身に裁量権が多くあり、チャレンジできる環境は整っています。でも、福利厚生など、働く環境が整っているかというとまだまだな部分もあります。価値観は人それぞれなのでそこに良い悪いは無いと思いますが、アソビューの仲間は、「新しいマーケットを席巻しよう」や「遊びを通じて地域を元気にしよう!」といったビジョンを語り、それに賛同してもらって仲間に入ってきてもらっています。だから、できる限り最後までみんなと一緒にやりたいという感情を優先するリーダーでいようと考えて雇用を死守しました。自分が大切にしている価値観を優先しようと考えました。

Q)日時指定チケットについてのエピソードで、日時指定チケットのシステム導入には通常、半年から1年くらいかかるといわれたとのこと。そんなに待ってはいられないという時に、山野さんが「やれない理由はいくらでもある。やるしかない、やったらなんとかなった」ということを語っておられました。そこにはどのような信念があったのですか?

A)起業すると、みんなが考え出したアイデアはダメだといわれます。そういうものです。周囲は否定から始まるものなんです。それでも事業を立ち上げてみると、大変なことはいくらでもでてきます。無理だなと思うこともいっぱいあります。そんな時に「諦めないと、無理ではない」ということに気づいたのです。小さな「無理だよ」と言われたことを「無理ではなくしてきた」自信が積みあがっていきました。小さな無理をできるようにしていくことで、「もしかしたら世の中って考え方次第では無理なことないかも」と思えるようになってきました。そういった成長があって、あの言葉になりました。

Q)このコロナ禍で事業にとってとても大変な時期に一番大切に思っていたことは何ですか?

A)続けることです。「コロナで事業をやめます」とは言いたくない。サービスを続けることをしたかったですし、サービスを創ってきた仲間との関係を続けることをしたかったです。「続ける方法を考えよう」ということが、一番思っていたことです。

■再び視聴者からの質問

―――ここであらためて視聴者からの質問にお答えします。

Q)起業に興味を持っているのですが、どんなことで起業したらいいかわかりません。

A)起業のテーマ、事業のテーマ、サービスのテーマを探すのは大変ですが、コツはあります。明確に「困るなあ」と思うことを見つければいいんです。アソビューというサービスをなぜ立ち上げたかというと、実体験です。旅行先で何をしたらいいか困ったんです。宿は探せますが、現地についてチェックインまでの時間に何をしたらいいかわからない。またチェックアウトしてから帰るまでの時間、何をしたらいいかに悩んでいました。困っていることを見つけたら起業のチャンスです。それが起業のテーマになります。

Q)自分の好きなことを起業につなげることはありでしょうか?

A)自分の好きなことが誰かが困っていることとは限らないでしょう。テーマは好きなことであるべきと思います。その方が楽しいから。好きなことの中で、周りは何を困っているかを見つける必要があります。そうしないと押し付けになってしまいます。いらないものには誰もお金を払ってくれないでしょう。全てのビジネスは困っていることを解決する手段です。

Q)学生時代に起業した経験は役立ちますか?

A)たとえ事業が失敗したとしても、損することはなにもありません。できる範囲で起業するのであればリスクは少ないです。それよりも、経験が積めること、チャレンジした実績・評判につながる、会社に就職するときにも起業経験は強みになるなど、悪いことは何もありません。ぜひ、チャレンジしてみてください。

■最後に

講演では、このレポートで紹介した内容以外にも視聴者からのたくさんの質問に答えていただきました。気になる方は、動画アーカイブをご視聴ください。

過去の起業家講演会(STARTUP STUDY)のアーカイブ動画も公開しています。